GAN(4/4)総括
はぐれ弁理士 PA Tora-O です。前回(第3回)では、VAEとGANを比較し、CGANまで発展させた場合のGANモデルの拡張性・応用性の高さについて説明しました。改めて復習されたい方は、こちらのリンクから確認をお願いします。今回(第4回)は、クレームを含む発明ストーリーを作成し、これまで3回分の検討を総括します。
発明ストーリー
【従来技術】
所与の学習データセットをベースに、学習データとは異なる新しいデータを人工的に生成する「生成モデル」が知られている。ニューラルネットワークを用いた生成モデルの一つとして、VAE(Variational Autoencoder)が挙げられる。この「VAE」は、学習データセットを潜在的空間上の特徴ベクトルとして埋め込み、AEの学習完了後にエンコーダ部分を切り離すことで、特徴ベクトルから様々なデータを生成する生成器(デコーダ部分)を構築する手法である。
【問題点と課題】
問題点は、学習データ自体の再現を試みる場合、VAEでは、データの再現精度がそれほど高くないこと。
課題は、所与のデータを高精度で再現すること。
【クレーム】(GAN)
真正データと同一のデータ形式を有する模擬データを生成するニューラルネットワークである生成器を、該生成器とは独立して設けられる弁別器を用いて学習させ、
弁別器は、真正データ及び模擬データのうちの一方のデータを含む情報を入力とし、一方のデータが真正であるか否かの弁別結果を出力するニューラルネットワークであることを特徴とする学習方法。(164文字)
【作用効果】
真正データ及び模擬データのうちの一方のデータを含む情報を入力とし、一方のデータが真正であるか否かの弁別結果を出力する弁別器を設けることで、生成器の生成結果および弁別器の弁別結果の組み合わせを考慮した相互的な学習を通じて、生成器は、真正データを高精度で再現した模擬データを生成する能力を獲得できるようになる。
また、一般的には、ニューラルネットワークは、入力層を含むネットワーク構成の設計自由度が高い機械学習モデルであるため、弁別器は、様々なデータ形式の入力および演算処理に対応可能となる。これにより、真正データの任意性および生成器の設計自由度が高くなるという利点もある。
作者コメント
クレーム表現に関して、マーカ箇所の「を含む情報」は、CGAN(Conditional GAN)を考慮して加えられた文言です。この文言がないクレーム範囲は、実質的には元祖GANのみを含む表現となっており、他の改良バージョンを全くカバーできません。この表現上の配慮を怠ると出願戦術的には失敗と言えるでしょう、残念ながら。
作用効果に関して、後段の記載が、GANの第二の強みである「拡張性・応用性」に繋がっています。エンジニアの観点で説明すれば、弁別器を生成器の下流側に配置するという前提の下、入力が生成器に適合するように、かつ出力が生成器に依存しないように弁別器を設計すればよい、ということです。
あと、AI弁理士の観点からコメントすれば、GANは、ある意味で大変残念な発明である、と言わざるを得ません。上記したクレームの通り、GANの特徴は、生成器というよりもむしろ弁別器の方にあります。ところが、GAN関連の製品を上市しようとする場合、製品の性質上、どうしても生成器のみが表に出る場合(反対に、弁別器が裏に隠される場合)が多そうです。そうすると、第三者による特許権侵害の立証がきわめて困難となり、折角の大発明なのに特許権として事実上保護されないという、悲しい状況に陥りやすいです。これが、AI学習アルゴ発明の取り扱いが大変難しい所以です。
以上をもちまして、GANの事例検討を終了します。次回から、また別のテーマに移ります。
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